【百名山】武尊山【登頂失敗】
出発まで家でダラダラするのも良かったのですが、せっかくの長期休暇。ここは山へ行くしかありません。
今回選んだ山は、群馬県北部に位置する独立火山峰『武尊山』。同じ百名産の『穂高』と同じ「ほたか」という呼び名の山です。
日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の東征の事故に名をちなむ武尊山は、実はめちゃめちゃアクセスが悪いです。駐車場があるのでマイカーを持っている人は良いのですが、私のように足が電車しか選択肢がない場合は、水上駅からタクシーで行かなければなりません(一応駅から徒歩でも行けるらしいですが、登山口まで4時間ほどかかるとか)。
全体の登山としては日帰りでも全然余裕で行けるのですが、横浜から水上まではやはり遠く、前夜泊の必要がありました。得意であったはずの野宿も、所帯を持った今は恐れ多くてできないため、現在のトレンドはネットカフェ泊です。
しかし水上駅付近にはネットカフェなんぞは存在しませんので、1時間ほど離れた高崎駅の周辺にあるネットカフェに泊まりました。
さて前置きを長々と書きましたが、ここからが本題。この日は天気が良く、最高の登山日和でした。
しかし、なんと登頂が失敗に終わるという悲劇が。
幼い頃から長野の山という山へ登らされ、今の今まで、一度も登山を断念したことはありませんでした。しかし今回は初めての登頂断念を決意。登頂失敗という初めての体験には正直ヘコみましたし、本当は失敗した登山の話なんか、みっともなくて書きたくないのが本音です。しかし、この失敗を経て大きなことを学べたのは確かな気がするので、教訓として書いていきます。


実は前夜泊のネットカフェで寝坊をしてしまい、朝起きたのが6時半。急いで高崎駅から水上駅へ電車で移動し、タクシーに乗り込みます。
そして水上駅からタクシーで約30分。
登山ルートは他にも川場スキー場からロープウェイで行くルートもありますが、今回はの登山は武尊神社からスタートです。

9:00
車両はこれより進入禁止。タクシーを降りていざ登山開始。

ここ一週間で急激に気温が上昇したことも相まって、雪解け水がすごい勢いで放流しています。そういえば5月の上旬の山はどこの山でも放流が始まる時期でしたね。

登り始めて早数分。早速雪道が現れました。都内では既に半袖で出歩く人もチラホラ見かけているだけに、まだ溶けきっていない雪が新鮮です。
アイゼンは持ってきていましたが、正直この段階ではまだ完全に雪山をナメていました。

空は晴れ渡り、雲ひとつない快晴です。
最高の登山日和なのに、開始から嫌な予感がずっとしていました。タクシーの運転手さんに別れ際に言われたひとこと、「油断大敵ですぞ」が頭から離れません。

目の前から年配の男性の方が降りてきます。
今日初めて見る登山客、かつ最初から物寂しさを感じていたので話しかけてみました。
「武尊山、行けましたか?」
すると、残念そうな表情で答えが返ってきました。
「雪が凄くて、全然だめだぁ。やめた方がいい」
過去に、別の山でも、何度か同じようなやりとりがあったのを思い出しました。
下山してくる人が「ダメだった」「無理だった」「あれは登れない」「引き返した方がいい」という、良心からのアドバイス。
私は
「そ、そうですか。ありがとうございます」
と、お礼をするとともに(いや、行けるって!)と、自信過剰になりアドバイスに耳を傾けず、先を突き進みました。この愚かな行動が、後々悲劇を招くとも知らずに。

雪解けの放流の影響で、足元はグチャグチャです。というか、小さな川みたいになっていました。

崖下から聞こえる轟音の正体を確かめるべく覗きこむと、そこには激流が。

一応、足跡をトレースしてきたつもりなのですが、気がつけばトレース跡がなくなっていました。嫌な予感。

もう道が全然分かりません。どっちへ行ったらいいのだろう。

一応、木に付いている赤ペンキを目印に進んできました。これが実は大きな間違いだったとは。
動画なんか撮って、まだこのときは余裕がありました。

振り向くと、もうそこには自分が歩いてきた足跡すら分かり難い状態でした。

一番上まで登りきったところが、行き止まりだという衝撃的な展開に唖然。
まさか、こっちは違うルートだったのか?1時間近く歩いてきた道が、まさか間違っていたなんて。まだ信じられない私は、直登を諦め左右へトラバースを試みました。が、ダメッ!圧倒的にダメッ!道がないッ!!
慌てて地図を見ると、穂高神社から約40分で、武尊山と剣ヶ峰山の分岐路に着くとのこと。しかし思い返せばなぜかずっと斜面を登っていました。
完全に詰んだことを悟り、下山。
もう一歩ずつ降りるのが面倒だったので、尻で滑り下山。あっという間になだらかな場所に降り、帰路を歩いて行くと道が左右に別れており、私はその左からきたことに気が付きました。
もしや?と思い右の道を見ると、なんと足跡があるではありませんか!足跡をトレースして、なんとか巻き返そうと足を早めます。

少しずつ広い道にも出てきて、心の焦りがゆとりになりました。空の写真を撮影する余裕さえも。

写真では撮っていませんが、この先は少し横幅のある大きな川が流れております。普段はそこまで幅がない川なのかもしれませんが、向こう岸に渡るためには川を飛び越える必要がありました。

10:34
予定よりも1時間ほど遅れて武尊山と剣ヶ峰山の分岐路へ到着。進路を示す看板を見れただけでも一安心です。もちろん、迷わず武尊山へ。

って、早速道が分からない。
木にくくられている赤リボンは数カ所見つけることができたのですが、そこまで行っても進路が見当たりません。足跡もひとつもありませんでした。

とにかく行けるところまで直登し、行き止まったらトラバースという、行き当たりばったりな危険な登山を開始。振り向くと、なんとか目をこらせば自分の足跡が分かるので続行します。

そしてここでついにアクシデント発生。
道無き道の急斜面を四つん這いになりながら登っていたのですが、足を滑らせ、ついに滑落。
20mくらいは滑り落ちたかもしれません。

起き上がり、周囲を見渡しても、そこには見覚えのない光景が。
トラバースしている途中に落ちたため、当然周囲を見ても、そこには足跡がなく、完全にルートから外れてしまいました。ややパニック状態に陥ります。

落下地点から30分以上彷徨い、なんとか這い上がり、自分の足跡を発見したときは嬉しくて嬉しくて、もう帰りたい気持ちでいっぱいでした。
自分が歩んできたルートを振り返ると、とんでもない急斜面。これをトラバースしてきたのかと思うと、心から帰り道が心配になりました。

写真では分かり難いかもしれませんが、足元を見ると急斜面。先ほどの滑落もあり、足がガクガク震えてしまいました。

一刻も早く安心できる場所に行きたいと、無我夢中で駆け上がり、なんとか稜線ぽいところに出ることに成功。一息着くとともに、急激に腹が減ったので昼食にします。

そういえばこの日は寝坊をしてしまったので、朝飯を食べていませんでした。そりゃ腹も減ります。

12:00
本来であれば、とっくに登頂時刻です。
急斜面のトラバース、そして滑落を体験した私はもう登る気力が無くなり、完全に心が折れてしまいました(マジで帰りどうしようと考えながらも、こんなポーズの写真を撮っているってことは余裕があったのかもしれませんが)。
地図に示されている避難小屋も一向に見える気配がなく、小屋があったとしてもそこから山頂まで登って帰るとなると、時間的にもかなり遅くなってしまいます。夜道の斜面は絶対危険。本気でヤバイ。
ーだが、登頂断念なんて有り得ない。
そんな葛藤とともに頭の中に浮かんだ、山の入口ですれ違った年配の男性の言葉。
「やめた方がいい」
あの言葉を素直に聞き入れていれば。という後悔の念。
しかし、あそこで引き返すということを恥と感じてしまった自分。そんな愚かな自分に本当に腹が立ちました。しかも、7日から海外旅行へ旅立つというのに、こんなところで万が一事故ったら目も当てられません。当然妻にも迷惑がかかってしまう。
独り身の頃の自分だったら、もしかしてこのまま突っ走るかもしれません。しかし、その一歩がもう踏み出せませんでした。おそらく、夏季の武尊山だったら、なんてことのない普通の山でしょう。でも今は冬山。夏山と冬山が大きく違うなんて、私は知っていたはず。人の忠告を無視し、自分を過信し、無謀な山へ突っ込むことは、果たして勇気と言えるのだろうか。
悩むこと約15分。
「諦める勇気も必要だ」と、以前、会社の先輩から言われた一言を思い出し、私は下山を決意しました。

いつもなら意気揚々と下山する私ですが、今回ばかりはさすがに元気が出ませんでした。完全に心が折れていました。そこからは写真を撮る気力もなくなり、ただ無心に下山しました。
下山開始から約2時間後、登山口の武尊神社に到着。
予約していたタクシーの運転手さんに連絡し、迎えに来てもらいました。

タクシーが到着するまで暇だったので、武尊神社の道路向かいの階段を降りたところにあると言われる滝を見ようと、階段を降りていきました。

これが「裏見ノ滝」。
雪解け水の影響で、物凄い放流でした。
今回の登山は失敗に終わりました。
理由は、自分の技術が足りなかったから。山をナメていたから。人の忠告を無視していたから。このすべてが重なって、登山が失敗したのです。
目的に向かってただ突き進むのが勇気ではなく、真の勇気は撤退するときに必要である。
ーそんな登山の基本中の基本を、今回の山行では思い出せたような気がします。
もう自分はひとりではないのだから、いい加減しっかりしないといけませんね。
予想以上に経費がかかりましたが、良い勉強代になったと受け止めておくことにします。
■次回のための経費メモ
電車代(東京⇔赤羽⇔高崎) : 3760円(往復)
ネットカフェ代 : 1600円(入会料込み)
タクシー代 : 14700円(往復)
No title
無事帰ってこられてなによりです
このGW、山の事故が重なっているので結構危ない時期なのかもしれませんね。
山の高低に限らず、トレースがない雪の雑木林は本当に怖いですね。
リボンも見えないこともあるし、景色もほぼ一緒なので迷ったらなかなか戻れないかも・・・
スマホでGPS入るのならば、地図アプリである程度トレスしてくれるので(登山用地図のスマホ版)ちょっとお勧めです。ちょっとね。